教員退職後の進路に迷ったら|国語教師が日本語教師に向いている理由

国語教師の経験を生かした日本語教師への転職をイメージする教室風景 教員の退職と働き方

※この記事は、
公立小・中学校で教諭として勤務したのち、
非常勤講師という働き方を選んだ筆者の実体験をもとに書いています。
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教員を退職したあと、どんな仕事ができるんだろう…。

これは多くの先生が一度は考える問題だと思います。

教員の仕事は専門性が高く、
「辞めたあとに何ができるのか分からない」
と感じる方も少なくありません。

私が選んだのは、日本語教師という道でした。
そして実際に働いてみて感じたのは、国語教師との相性の良さです。

日本語教師は“教員経験が活きる数少ない転職先”といえます。

この記事では、
国語教師と日本語教師の共通点と違いを整理しながら、
教員退職後の進路の一つとして、日本語教師が現実的な選択肢になるのかを考えていきます。

私が中学校教諭を退職しようと決めたのは、退職の1年前でした。
この1年、教諭として走り切ったら辞めよう。そう思って最後の1年を過ごしました。

退職後は日本語教師として働きたいと考え、
1年間で養成講座の受講や情報収集を進めました。

退職までの1年間で行ったことや、注意点など
教員退職から非常勤講師へ!失敗しない準備と働き方
の記事に詳しくまとめましたので、あわせてご覧ください。

もともと私は海外で暮らした経験があり、
外国語を学ぶおもしろさを実感していました。

ただ、日本語教師として働けるかどうかには不安もありました。
「国語教師が外国人に日本語を教えられるのか?」
これは私自身が最初に感じた疑問でした。

しかし実際に学び、働いてみると、
国語教師としての経験は想像以上に活かせる場面が多かったのです。

では、なぜ相性がいいのかお話していきます。
その理由は、大きく分けて
「共通する力」「現場で感じた相性」の2つにあります。

この記事では、

・国語教師の経験がどのように日本語教師に活きるのか
・実際に働いて感じたリアルな違いと注意点
・転身が現実的な選択肢になるのか

を、実体験をもとに整理しています。

国語教師と日本語教師に共通する力

言語を教える授業の共通性を示す板書の様子

言葉を構造で捉える力がそのまま活きる

「日本語」と「国語」は全然違う、とよく言われます。

実際、教え方も用語も大きく異なります。

日本語教育には独自の用語や教え方があり、
国語の知識だけで外国人に日本語を教えることはできません。

たとえば動詞の活用。
国語では「五段活用」「促音便」と教えますが、
日本語教育では「Ⅰグループ動詞」「て形」「た形」と教えます。

最初にこの違いを知ったとき、
私はむしろ日本語の仕組みが整理されて見えるようになりました。

国語教育では母語話者の感覚に寄り添って説明しますが、
日本語教育では言語を構造として整理し、
ルールとして提示します。

この両方の視点を持てることは、
国語教師が日本語教師になる大きな強みです。

実際に私は、日本語教育で学んだ視点を使って
中学生に「どうしてここで促音便になるんだと思う?」
と問いかけたことがあります。

生徒たちは謎解きのように考え始め、
言葉の仕組みを理解しようとする姿が見られました。

言語を構造として捉えられること。
そしてそれを学習者の理解に合わせて説明できること。

これは、国語教師として培ってきた力が
そのまま活きる部分だと感じています。

また、国語の知識が活きるのは初級文法だけではありません。

上級レベルの日本語学習者に対しては、
話し方の授業や敬語の使い分け、日本文化に関わる内容などで、
国語の授業経験が大いに役立つ場面があります。

表現のニュアンスや場面による言葉の選び方を説明するとき、
国語で培ってきた言語感覚や教材の引き出しがそのまま活きます。

実際に「短歌を作ろう」という授業を上級レベルのクラスで実施したことがあります。
書写の授業の経験も、文化体験の場面ではとても生かされます。

初級では構造理解の力が、
上級では言語感覚と表現指導の経験が活きる。

この点でも、国語教師と日本語教師は非常に相性の良い仕事だと実感しています。

このように、言語を構造で捉える力は日本語教師にとって重要な基礎になります。
次に、もう一つの共通点である「学習者理解」の力について考えてみます。

学習者のつまずきに気が付ける

学習者がどこでつまずき、理解が止まっているのか。
これに気づけることは、教師にとって大きな強みです。

外国人学習者でも、小中学生でも、

わからなくなったときには手が止まり、思考が止まります。

教室全体を見渡し、
誰がどこで止まっているのかを感じ取る力は、
現場経験を積んできた教師だからこそ身についているものです。

日本語教師の勉強だけでは培えない、
「教室を見る力」がここで発揮されます。

「先生!」と声を掛けてくれる学習者もいれば、
どう質問していいかわからず、黙っている学習者もいます。
そんなとき、こちらから声を掛けることで、
「あ、先生は見てくれていたんだ」という信頼が生まれます。

この学習者理解の力は、
国語教師として現場に立ってきた経験がそのまま活きる部分であり、
日本語教師として働くうえでも大きな武器になると感じています。

板書・説明・例示の引き出しが多い

授業を組み立てる力や教材を整える力は、
国語教師としての経験がそのまま活きる部分です。

日本語教師になるための実践研修では、
フラッシュカードや掲示用カードを作成し、授業を行いました。

その際、
文字の大きさや配置、色の使い方など、
後ろの学習者にも見える工夫ができている点を指導担当の先生に評価していただきました。

当たり前だと思っていたことは、当たり前ではない「授業技術」であり、
それがすでに身についていたのだと気づいた瞬間でした。

教材の扱い方や教具の使い方も、
これまでの授業経験の蓄積があります。

また、国語教師ならではの強みだと感じたのが
「例文を作る力」です。

日本語教師にとって、
多くの例文を即座に示せることは重要な技能の一つです。

国語教師は、
教材文を繰り返し読み、
生徒の文章を数えきれないほど読んできています。

この言語経験の蓄積が、
学習者に合わせた自然な例文提示につながります。

生成AIを使えば例文を作ることはできますが、
目の前の学習者に最も適した表現を選び取る力は、
実際の言語に長く触れてきた教師の経験があってこそだと感じています。

板書・説明・例示の引き出しの多さは、
国語教師として培ってきた授業経験そのものが
日本語教師の現場で活きる証拠だと思います。

ここまで共通点を見てきましたが、
実際に働いてみると「違い」も確かにあります。

逆に「違う」と感じた点・注意点

日本語教師への転職で注意点を整理して考えている様子

授業の進め方の違い

国語教師をはじめ、中学校の教師は1人で1年間の授業を担当します。
しかし、日本語学校では、複数の教師で1クラスを担当し、
授業スケジュールに沿って進めていく教え方が一般的です。

そのため、
「今日はここまでしかできなかったから続きは次回でいいか」
という調整は基本的にできません。

「第〇課の✖✖まで」と決まっていれば、原則としてその通りに進めます。
もう少し時間を割いて説明した方がよさそうだ…と感じても、
その時間が取れないことも珍しくありません。

そこで必要になるのが、
学習者がつまずきそうなポイントを事前に予測し、授業に組み込んでおくことです。
同じ課を扱う場合でも、
同じように教えればよいわけではありません。

クラスの特徴や理解度に合わせた授業設計が求められます。
担当クラスや、スケジュールの出るタイミングにもよりますが、
教材研究や授業準備には想像以上に労力がかかります。

そのため、日本語学校では
その場で調整する力よりも、事前に授業を設計する力が重要になると感じました。

制度・立場の違い

日本語学校には、常勤と非常勤の教師がいます。
現状では非常勤の教師が多いと言われており、
求人募集も非常勤での採用が多い印象です。

非常勤は契約期間や収入面において不安定になりやすい働き方です。
収入面の不安定さについては
非常勤講師の収入が不安定な理由
の記事で詳しくお話しています。

また、日本語学校は学校ではありますが公務員ではありません。
そのため、保障面などで公務員時代との違いを感じる方もいると思います。

一方で、2024年に国家資格「登録日本語教員」が創設されてからは、
資格保持者を常勤として採用しようとする動きも出てきました。

また、国家資格化によって
日本語学校以外での働き方の選択肢も広がっています。

ただし現時点では、待遇がすぐに改善されたわけではなく、
学校ごとの差は依然として大きいというのが実感です。

日本語教師として学び直しが必要な点

日本語教師として働き始めて、
私がもっとも苦労したのは「ティーチャートーク」です。

つまり、学習者のレベルに合わせて
教師自身が使う語彙や表現をコントロールする必要があるということです。

これは日本語教師ならではの技術で、
慣れるまでは思うように話せず、口数が減ることもよくありました。

たとえば、
「はい、このプリント後ろの人にまわしてください」

日本語母語話者にとっては何気ない指示ですが、
初級はもちろん、中級の学習者にとっても難しい表現です。

「後ろ」は既習語彙か?
「まわす」はもっと簡単に言えないか?

このように、自分が発する一語一語について、
既習かどうか、伝わるかどうかを常に意識する必要があります。

初級クラスでは普通体を学習するまでは丁寧体で話すことも求められます。

さらに、日本語学校では1クラスを複数の教師で担当するため、
教室で使う語彙はできるだけ統一しておかないと学習者が混乱します。

動詞の「て形」「ない形」の呼び方、
「自動詞」「他動詞」の扱いなど、
教師同士の連携も重要になります。

そして大切なのは、
「今の説明は本当に伝わっているか」と常に振り返る姿勢です。

学習者は、分からない日本語をそのまま聞き流してしまうことがあります。
分からないからです。

授業中の反応を見て
「あ、これは伝わっていない」と感じたときは、
他の先生がどう扱っていたのか、
未習語彙で説明していなかったかを振り返る必要があります。

日本語教師として働き始めてから、
話す日本語そのものが教材になる仕事なのだと実感しました。

実際に働いて感じた「相性の良さ」

国語の知識が日本語教育に活かせることを示す文法書と添削の道具

授業づくりの考え方がほぼ同じ

授業づくりに関しては、これまでのノウハウをそのまま発揮できます。

目標を設定し、そこに向けて教える順序を考え、
どの活動を入れるかを組み立てていく。

この基本的な考え方は、日本語教育でもまったく同じです。

国語科でいう「読む」「書く」「話す」「聞く」のどこを重視するか、

どう組み合わせて学習活動を設計するかという視点も変わりません。

小中学校で作成していた「指導案」は、
日本語教育では「教案」と呼ばれるだけです。

慣れるまでは簡易版を作成し、
タイムスケジュールや中心発問を整理しておく。

この方法も、日本語学校でそのまま通用します。

つまり授業づくりに関しては、
ゼロから学び直す感覚はほとんどありませんでした。

年齢や文化が違っても対応できる理由

日本語学校の学生は留学生として来日しているため、
20歳前後の若い学生が多くなります。

言語も文化も背景もさまざまですが、
「日本語を学ぶ教室の一員」である点は共通しています。

一人一人の理解度を見極め、
全体指導と個別支援を組み合わせて授業を進める。

この基本姿勢は、小中学校の教育と変わりません。

クラス運営経験があるからこそ、
教室全体を見ながら授業を進めるスキルはすでに身についています。

以前、こんな場面がありました。

ネパール人学生と中国人学生がディスカッションの中で、
1人の学生が国際問題に触れかねない発言をし、教室の空気が一瞬凍りました。

そのとき私は、道徳的な視点から対応しました。

「そうですね。ニュースではそういう情報もありますね。
でも、このクラスの〇〇さんはどうですか?いつもやさしいです。
私は一緒に勉強できて楽しいです。△△さんはどうですか?」

このように、国の話から個人へ視点を移し、
教室の空気を整えました。

小中学校でも、誰かが何かの代表として語り、
対立が生まれそうになる場面はよくあります。

そうした経験が、日本語学校でもそのまま生きました。

もちろん、宗教観や社会問題、文化的背景について
教師が知識を持っておくことは大切です。

しかし最も重要なのは、
目の前の学生をよく見て
その学生の言葉で理解しようとする姿勢だと感じています。

これは、どんな教育現場でも変わらない本質だと思います。

教諭時代の経験が自信になる場面

実際に働いてみて感じたのは、
これまでの経験が想像以上に支えになるということでした。

トラブルが起きたとき、
学習が思うように進まないとき、
他の日本人や学校との連携が必要なとき。

こうした場面では、
教諭時代に積み重ねてきた判断力や対応力がそのまま生きます。

新しい職種に挑戦する不安はありましたが、
現場に立つと「できることの方が多い」と実感しました。

国語教師として培ってきた経験は、
決してゼロにはならない。
むしろ、日本語教育の現場で強みとして生きていきます。

国語教師から日本語教師への転身はこんな人に向いている

ここまで見てきたように、国語教師は日本語教師と相性がよく、
転職先として十分に検討する価値のある仕事です。

もちろん、誰にでも合う仕事とは言えません。
しかし、次のような思いがある方には、特に向いていると感じます。

  • 授業そのものが好きで、授業づくりを考える時間が苦ではない
  • 言葉の仕組みや表現の違いに興味がある
  • 学ぶ側(生徒・学習者)の理解に寄り添う仕事がしたい
  • 学習者の「わかった!」という瞬間にやりがいを感じる

もしこれらに当てはまる部分があるなら、
日本語教師という働き方は、これまでの経験を生かせる選択肢の一つになるはずです。

なお、「非常勤講師」という働き方に向いているかどうかについては、
別の記事で詳しく整理しています。
「非常勤講師という働き方は誰に向いている?教諭を辞める前に整理したい判断ポイント」

まとめ

教員退職後の新しいキャリアを考える前向きなイメージ

教員を退職したあと、これまでの経験がどこで生きるのか。
不安に感じる方は多いと思います。

しかし、国語教師として積み重ねてきた力は、
日本語教師という仕事の中で想像以上に自然に生かされます。

言葉を構造で捉える力。
学習者の理解を見取る力。
授業を組み立てる力。

これらは、新しく身につけ直すものではなく、
すでに持っている土台の上に積み上げていける力です。

もちろん、日本語教育には独自の知識や技術があり、
働き方や制度面でも学校現場とは違いがあります。
ですが、それらは「ゼロからの挑戦」ではなく、
これまでの経験を土台にした“学び直し”だと感じています。

もし、退職後の進路に迷っているなら、
日本語教師という道は現実的な選択肢の一つになります。

さまざまな事情で「先生を辞めようかな」と考えている方の
選択肢の1つになれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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